「住居における格差―住まいの貧困」
多少固いタイトルになっていますが、「貧困と格差」が具体的な形で現れる重要な部面として「住宅」があります。突然ですが「アメリカン・ドリーム」をご存知と思いますが、その大目標に「大きな家に住むこと」があります。ご当地アメリカでは数年前の「サブプライムローン」の破綻による住宅危機で、「ドリーム」はあまり聞かれなくなりましたが、日本では今でも実現されています。それが「思いやり予算」によるアメリカ軍人用の住宅です。普通の家族住宅で4寝室、広い居間と浴室・シャワールーム付き、約50坪(160㎡)、1戸当り建築費約4,800万円というものです。公営住宅は平均約50㎡(15坪)ですから、3倍もの広さと設備水準があり、建築費も3倍以上です。
その公営住宅には、年間90万世帯の応募があり、そのうち入居できるのは約10万世帯で、多くの人たちが「健康で文化的な最低限度の生活」の基盤ともいえる公営住宅にも入れない現実があります。余談ですが、東京に「アメリカンドリーム」という不動産会社があり、物件紹介に「御殿山ガ―ディンシティ、2LDK、家賃23万円」とありました。もともとわが国では、お金持ちは良い住宅に住めるが、貧しい人は劣悪な住宅に住まざるを得ない、という所得格差付き、階層格差付きの住宅政策がとられてきました。所得の多寡によって住む家が決められてしまうという、「住居における格差」が戦後政治の中で継続してつくられてきました。
それが近年の「貧困社会」が生まれる中で、格差による深刻の度が深まり、「住まいの貧困」(ハウジングプア)という重大な問題が起こっているのです。わが国の貧困率が「最悪の16%」(09年)になったことが7月12日の厚労省の発表で明らかになりました。前回調査(06年)の「15.7%」(09年10月発表)を上回ったのです。筆者はこの時「15.7%の要因に都市・住宅政策あり」という一文を書きました(「建築ジャーナル」誌・09年12月号)。そこでは、「公営住宅は『建てない、入れない、追い出す』の3大改悪が行われ、・・・」など、「構造改革路線のもとで全面的な(住宅の)市場化が追求され、公的責任の放棄が行われてきた」ことに言及しました。貧困率16%には、全世帯の32%が年収300万円未満という低所得層の拡大が含まれています。
民主党政権のもとで、構造改革路線の復活が行われ、格差付き住宅政策が続けられています。とりわけ東日本大震災でのホームレスの増大をはじめ住まいの貧困状況が拡大する中で、重大な危惧が今の政治に向けられています。ハウジングプアを無くすために「住まいの貧困に取り組むネットワーク」を2年前、NPOもやいの稲葉剛代表理事と共に設立しました。「住まいは人権」(人間にふさわしい住居に住むことは基本的人権)の実現、住宅政策の転換をめざし多くの仲間とともにたたかいに立ちあがっています。
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