2012年12月21日金曜日

 国際人権A規約13条(中等・高等教育の無償)の 留保撤回の意義と課題
 三輪定宣
(千葉革新懇代表世話人、千葉大学名誉教授)

 46年ぶりの悲願の実現
 中等教育・高等教育(日本では高校・大学等)の「無償教育の漸進的導入」を定めた国際人権社会権規約(A規約)13条2項(b)(c)の留保撤回が、9月11日に閣議決定され、直接に国連本部に通告・受理され、条約としての効力が発効しました。同規約の国連総会採択(1966年)以来、46年、およそ半世紀ぶりの悲願の実現です。
 日本とマダガスカルだけが
 日本政府は、1979年、同規約を締結しましたが、13条のこの部分を日本に私学が多いなどの理由から留保してきました。本年8月現在、締約国は160か国、それを留保する国は日本とマダガスカルの2ケ国だけでした。国連の社会権委員会は、20018月、日本政府に対し、5年間の猶予を付け、20066月までにこの部分の留保撤回の検討を勧告し、政府は11年ぶりにこれに応えたのです。遅きに失したとはいえ、日本の教育史上、画期的なことです。
 要求と運動の広がり
 その背景には、その留保撤回、無償教育の実現を求める国民の要求と運動の広がりがありました。例えば、「奨学金の会」(「国民のための奨学金制度の拡充をめざし、無償教育をすすめる会」、)教育全国(3000万)署名運動などです。ほとんどの政党は、最近の選挙にその留保撤回を政策に掲げ、日本共産党は、しばしば国会でもこの問題を取り上げ、議論をリードしてきました。
 条約として発効
中等・高等教育無償化条項は条約として発効し、「誠実に遵守」(憲法98条)すべき憲法上の義務規定となったのです。
低い教育予算、高い学費
しかし、日本の教育財政の水準は主要国最低です。OECD(経済協力開発機構)の統計によれば、2009年、GDP(国内総生産)に占める教育機関に対する公的支出の割合は全教育段階でOECD平均5.4%、日本3.6%、比較できる31ヶ国で最低です。高等教育では各1.1%、0.5%、日本はその平均の半分以下に過ぎません。反面、授業料などの私費負担は最高ランク、“世界一の高学費”です。
教育予算の飛躍的増額を
政府は、教育予算の飛躍的増額、高校・大学の授業料無償化、学校納付金の軽減、給付制奨学金の導入など、条約の「誠実な遵守」の立場から、中等教育・高等教育の「無償教育の漸進的導入」の総合的計画を早急に作成し、予算に具体化することが必要です。
特に異常な高学額により、低所得者の教育の機会均等が空文化している現状を直視し、経済的に就学困難な生徒・学生や東日本大震災の被災者などに対する優先的・重点的な無償教育の実施が急がれるべきです。
問われる各党の対応
国民の側にその実現を迫る運動が求められるとともに、総選挙の新しい国会では、各党がこの課題にどう対応するかが問われることになります。