2012年2月29日水曜日

比例定数削減問題と議員・国会・選挙制度                       
藤本齊
自由法曹団東京支部長


 民主党政権は、「社会保障・税一体改革大綱」の中に、「衆院定数80削減」を明記しました。消費税の大増税計画を押し付ける際に、「自ら身を切る改革を実施した上で」と称して、比例定数削減に躍起となっています。しかし小選挙区制の弊害が露わとなる中、民意を正確に反映する選挙制度への抜本的な改革こそ求められています。議会制民主主義の根幹にかかわる問題であり、220日に開催された代表世話人会の「話題提供」において、藤本齊代表世話人(自由法曹団東京支部長)が、『比例定数削減問題と議員・国会・選挙制度』と題して報告しました。その概要は、次の通りです。
最高裁の判決(2011年3月23日)は、衆院選挙の「一人別枠方式」は憲法の「投票価値の平等」の要求に反しており、その廃止・是正を求めている。憲法13条に基づき、すべての選挙人を「一人前に扱え」ということである。しかし、定数を削減するという議論は、最高裁判決の精神からさえもドンドンとずれて、逆走突進中なのである。小選挙区制の導入で、国会は民意とかけ離れ、議員の劣化が深刻である。
衆院選挙制度の各党協議会では、民意をゆがめる現行の小選挙区比例並立制を見直すべきという意見が多くだされたが、樽床座長は2月15日に、座長私案として「比例定数80削減」を提示し、「比例定数の削減に伴い民意が過度に集約されることを補正する措置を講ずる」として連用制に言及した。
連用制はどの国でも実施されたことがない選挙制度で、公明党が提唱したものである。連用制は、小選挙区と比例代表を組み合わせた選挙制度のひとつで、比例代表議席の配分を、得票を「小選挙区の獲得議席+1」から順に割った商の大きいものから配分する。小選挙区議席を獲得できない中小政党に比例代表議席が優先的に配分されるため、現行の並立制に比べて中小政党が議席を得やすくなる。
「連用制」はよりましの制度か?連用制も小選挙区と比例代表を組み合わせた選挙制度で、その結果、小選挙区で議席を得られない政党は、比例区でも支持を失い、後退していかざるを得なくなる(「小選挙区効果」)。また、連用制の固有の問題点として、投票行動の結果や投票意思が恣意的に操作され、選挙が混迷することが指摘されている。(自由法曹団作成のパンフ『小選挙区比例代表連用制を検証する』を参照してください。)さらに自民党の議員から、「連用制」ならば「1票制が筋」と反論されており、「1票制連用制」は、少数政党排除の「切り札」となる危険がある。 
しかも政府・民主党は、比例定数の削減とセットで連用制を提案しており、比例定数の割合が低下すれば、得票率と議席は対応しなくなる。
結局、現行の小選挙区比例代表並立制の集約(「小選挙区」)と反映(「比例代表」)の二兎追いの矛盾とゴマカシが破綻してしまっている。議会制民主主義を再生させるには、小選挙区制そのものを廃止し、民意を正確に反映する選挙制度へ抜本的に改革するしかない。(文責、編集部)

2012年2月4日土曜日

野田政権の悪政を斬る~民主党政治の暴走と政治の劣化を食いとめるために~
法政大学教授 五十嵐 仁

法政大学大原社会問題研究所の五十嵐 仁さんの、東京革新懇総会(2012年1月28日)での記念講演「野田政権の悪性を斬る」をご紹介します。
冒頭、「小泉政権後、自民党政権3年で3人の首相、民主党政権3年で3人の首相」と韓国で話したら「信じられない」との反応があったことを紹介、どうしてこれほど不安定になったのか、問題を提起しました。

1、野田政権の暴走と民主党政治の迷走
 短命政権には、小選挙区制という制度的背景と、反国民的政策という政治的な背景がある。野田政権は「自民党返り」を鮮明にしており、短命・選挙での敗北は避けられない。
 急浮上したTPPはアメリカ好みの社会改造であり、「社会保障と税の一体改革」は、社会保障を餌にした増税が狙いである。しかし、この間、消費増税は、所得税・法人税の減で税収をもたらさなかった。税収増のためには、大企業減税の中止と内部留保の課税強化、所得税への累進強化、金融取引への課税強化などを実施すべきである。

2、政治の劣化の背景としての政治改革
 「政治改革」は、「リフォーム(改革)詐欺」で、国民の民意から乖離してしまった。小選挙区制の導入は、二大政党化による小政党の排除、理念・政策に基づかない政党の登場、二大政党の政策的な接近、短期間による多数派政党の入れ替わりとねじれ現象など害悪が明らかになった。比例代表選挙を基本とした選挙制度に転換すべきである。ところが、消費税増税前の「無駄」削減として、政府・民主党は比例定数80削減の動き。

3、「3.11」後が指し示す新しい政治と社会への展望
 震災復興をめぐる2つの道の対決(構造改革型か新福祉国家型復興)が、激しさを増大させている。自然災害を利用した「日本型ショック・ドクトリン(ナオミ・クライン)」による大資本の階級支配を許してはならない。
 「原発ゼロ」と自然エネルギーへの転換は、地域に雇用を生み、地方を再生させる新しい可能性がある。
 「ワーキングプア」「過労死」「サービス残業」をなくすなど、新しい社会に転換する生活と労働の刷新が求められる。被災者救援で奮闘した公務員の給与削減、減員を行わず士気を高めることが必要である。
 世界的な規模で新たなうねりが生じている。日本での「年越し派遣村」などの反貧困運動、北アフリカ・中近東の「アラブの春」の波及、アメリカでの「99%運動」の拡大、日本での脱原発デモへの青年の参加、TPP反対運動への農家や医師、中小業者の参加など、新たな共同の可能性、政治革新に向けた社会的条件が広がってきている。

 世の中を変える「知力革命」を
最後に、「騙した者はもちろん悪いが、騙された側にも責任がある」の至言を引用し、誤りを知っていても多数派にならなければ、被害を受けると指摘、「賢い市民」となって世の中を変える「知力革命」を熱く強調しました。  (文責、東京革新懇編集部)