2018年10月31日水曜日

日本をめぐる連立五元方程式を平和の答で成立を
     丹羽宇一郎 元中国大使 元伊藤忠商事会長

 9月30日、東京革新懇学習交流会の丹羽宇一郎さんの記念講演要旨をご紹介します。

戦争を語り伝えていくこと
最初に、私が非常に気にしていることを申し上げる。戦争というものに対しての感覚が非常に鈍くなってきている。田中角栄は「これからの世界で一番危ないのは、戦争の体験者が世界のリーダーの中から一人もいなくなることだ」と語っていた。トランプやプーチン、安倍首相、習近平も体験がない。戦争体験者は「戦争」というとイメージがフラッシュバックのように思い出す。中国の友人で非常に有名な幹部と話しをした時、彼にとって戦争というと日本軍の侵略をすぐ想い出すと言うのです。日本軍が中国人を戦車で踏みつぶして行ったことや、親族や子どもが殺されたことが、蘇るのだと語っていた。「それを君は忘れろというのか?」と問われた。戦争はいかにひどいものであるかを経験者が生きている間に、後世に伝えていくことが今一番大事だと思い、私は「戦争の大問題」という本を書いた。 
戦争体験者は90歳以上がほとんどだ。人に語れないことをたくさんやっている。縛られた中国人を刀で突き刺した体験、住人を虐待し、凌辱される女子を何も助けられない無力の人々を見ていた体験。書いてもいいかと訊くと「後世に伝えなくては死ねない。最後の機会だと思う」と語ってくれた。
「チムグリサ沖縄」という沖縄の戦争体験者を取材して書かれた本がある。本を読んで涙を流すということはめったにないが、この本を読み私は怒りで涙を流した。「チムグリサ」とは「ああ、哀れだな」という意味だ。沖縄の県民がいかに戦争の被害を受けたか。女、子どもが凌辱される。たくさんの人が被害を受けた。 
私は「戦争には近づくな」をモットーとし、共謀罪など戦争に近づくようなことは全部反対だ。
日本の5つの連立方程式
日本には連立一次方程式が5つある。答えが一つならば連立五元方程式と言える。中国-日本、アメリカ-日本、韓国-日本、北朝鮮-日本、ロシア-日本、日本を中心とした5つの方程式だ。「平和」という解答しか五つに共通するものは無い。日本が考えなくてはならないのは日本を取り巻く5カ国との関係を「平和」という答えで連立方程式として成立させることだ。
ロシアとの関係
歴史認識の甘さが、北方領土への墓参などでさえ時間がかかる政府の協議に出ている。ロシアが、軍事基地をふたつ持ち、投資をし、新しい戦闘機を導入しているのは、択捉、国後。4島の土地の面積97%を占めている二島だ。歯舞、色丹は大まかに言えば警備部隊しかいず、軍の基地も無い。択捉、国後を日本に返すとなったら、軍事基地はすぐ日米同盟でアメリカが使う。百も承知のロシアが択捉、国後を返す訳が無い。漁業交渉、地下資源の開発は日本として譲るわけにいかない。その話合いをすべきだ。
日朝関係、朝鮮半島の非核化
日朝の方程式からして、力と力と言っている安倍首相はおかしい。安倍首相がトランプを100%支持するのもおかしい。世界は真剣に受け止めてない。金正恩にとって、アメリカがこっち向いたら日本もすぐこっち向くようでは信用できない。韓国の文在寅も拉致問題は言ってくれたが返事がない。北朝鮮と日本も簡単ではない。
 「朝鮮半島の非核化」と韓国も北朝鮮も中国もロシアも言っている。アメリカは「北朝鮮の非核化」と言っている。これは根本的に違う。朝鮮半島と言えば韓国が入る。韓国の非核化は米韓関係の軍事同盟をやめろということになり、米軍は撤退ということになる。
中国・北朝鮮軍事同盟
 1961年に中国北朝鮮軍事同盟が結ばれた。中国と北朝鮮はどちらかが攻撃を受ければ自動的に相手をバックアップする。この同盟は20年ごとに更新。アメリカが北朝鮮を攻撃したら自動的に中国は北をバックアップする。最近の中国と金正恩の話し合いでもこの一項が確認されているだろう。北朝鮮から攻めた場合はこの限りではない。
 次の更新は2021年。休戦条約を終戦条約にして国交を正常化すれば中国、北朝鮮の協定は破棄されるかもしれないが簡単ではない。
韓国との方程式 
韓国との方程式も難しい。韓国と日本の文化の違い、過去の歴史から見て、韓国は日本が考えるようには動かない。慰安婦問題など、歴史的な韓国と日本の関係をよく考えてやらないと簡単には進まないと思う。
アメリカとの関係
 日本はアメリカについて行くだけだから答えはない。自衛隊は、日本国民の安心、安全のために、自然災害中心安保部隊としてもいい。攻められたときに何にも出来ませんでは困る。今の憲法のままで、専守防衛だと明確にしておくべきだろう。
日米地位協定は見直さなければならない。アメリカの友だちから「敗戦状態と同じ条件だ。戦後70年たってまだ自主権がないのか」と言われた。日米同盟もそういう目で見直さなければならない。
日中関係をどう考えるか
最近、中国は日本との関係を大事にしないといけないという気持ちが強くなっている。
習近平は、新天皇即位のあと日本に来て第5の日中共同声明を出す。両国は協力して、アジア全体のために平和と経済の発展に努力しようと言う方向へ進んで欲しい。安倍首相は10月下旬に中国に行き、北朝鮮問題も突っ込んで話しをして欲しい。周恩来、習近平がいつも言っていたように「住所変更は出来ない」。100200年で見ると、良くなったり、悪くなったりする。30年前は、日本と中国の9割の人がお互いに好感を持っていた。今は嫌い、信用できないとなっている。今の時代もはや尖閣列島の奪い合いはない。資源開発と漁業権の問題とか現実的な話し合いになる。
両国とも戦争を避けようとの機運がある。是非皆さんもメディアもこうした戦争を避ける動きをバックアップするように、自分の出来る範囲で一歩前へ活動を進めて頂くよう期待しております。