2012年12月21日金曜日

 国際人権A規約13条(中等・高等教育の無償)の 留保撤回の意義と課題
 三輪定宣
(千葉革新懇代表世話人、千葉大学名誉教授)

 46年ぶりの悲願の実現
 中等教育・高等教育(日本では高校・大学等)の「無償教育の漸進的導入」を定めた国際人権社会権規約(A規約)13条2項(b)(c)の留保撤回が、9月11日に閣議決定され、直接に国連本部に通告・受理され、条約としての効力が発効しました。同規約の国連総会採択(1966年)以来、46年、およそ半世紀ぶりの悲願の実現です。
 日本とマダガスカルだけが
 日本政府は、1979年、同規約を締結しましたが、13条のこの部分を日本に私学が多いなどの理由から留保してきました。本年8月現在、締約国は160か国、それを留保する国は日本とマダガスカルの2ケ国だけでした。国連の社会権委員会は、20018月、日本政府に対し、5年間の猶予を付け、20066月までにこの部分の留保撤回の検討を勧告し、政府は11年ぶりにこれに応えたのです。遅きに失したとはいえ、日本の教育史上、画期的なことです。
 要求と運動の広がり
 その背景には、その留保撤回、無償教育の実現を求める国民の要求と運動の広がりがありました。例えば、「奨学金の会」(「国民のための奨学金制度の拡充をめざし、無償教育をすすめる会」、)教育全国(3000万)署名運動などです。ほとんどの政党は、最近の選挙にその留保撤回を政策に掲げ、日本共産党は、しばしば国会でもこの問題を取り上げ、議論をリードしてきました。
 条約として発効
中等・高等教育無償化条項は条約として発効し、「誠実に遵守」(憲法98条)すべき憲法上の義務規定となったのです。
低い教育予算、高い学費
しかし、日本の教育財政の水準は主要国最低です。OECD(経済協力開発機構)の統計によれば、2009年、GDP(国内総生産)に占める教育機関に対する公的支出の割合は全教育段階でOECD平均5.4%、日本3.6%、比較できる31ヶ国で最低です。高等教育では各1.1%、0.5%、日本はその平均の半分以下に過ぎません。反面、授業料などの私費負担は最高ランク、“世界一の高学費”です。
教育予算の飛躍的増額を
政府は、教育予算の飛躍的増額、高校・大学の授業料無償化、学校納付金の軽減、給付制奨学金の導入など、条約の「誠実な遵守」の立場から、中等教育・高等教育の「無償教育の漸進的導入」の総合的計画を早急に作成し、予算に具体化することが必要です。
特に異常な高学額により、低所得者の教育の機会均等が空文化している現状を直視し、経済的に就学困難な生徒・学生や東日本大震災の被災者などに対する優先的・重点的な無償教育の実施が急がれるべきです。
問われる各党の対応
国民の側にその実現を迫る運動が求められるとともに、総選挙の新しい国会では、各党がこの課題にどう対応するかが問われることになります。

2012年11月4日日曜日

 今、なぜタカ派の台頭か
 安保ファシズムには“国民総掛り”で対応を!
   平和憲法の「全面的開花」で
       10月19日 東京革新懇代表世話人会 話題提供
              金子勝代表世話人(立正大学教授)

「政治を変えたい」との期待を裏切った民主党政権が支持率を低下させる中で、解散・総選挙が迫ってきています。その「選挙の顔」として、民主党は党代表として野田佳彦首相を再選し、自民党は安倍晋三元首相を総裁に選びました。いずれも「タカ派」で、いま、なぜタカ派の台頭なのか。10月の代表世話人会の「話題提供」では、「民主党・自民党の党首選挙結果と右傾化する政局~『安保』ファシズムを阻止するために」と題して、金子勝代表世話人(立正大学教授)が講演しました。要旨は、次の通りです。
国民全体を敵に
消費税増税と社会保障の切捨て、TPP参加、改憲、米中戦争(注)など、アメリカと日本の大企業の“金もうけ”のために、日本の国民全体を敵にする政策が必要になった。これを実現・継続する強力な政治力・軍事力が求められる「新しい政治情勢」が出現した。そして、消費税増税法案をめぐる「三党合意」を画期として、二大保守政党「対決」政治から、「保守総掛り」政治への転換が行われた。
ファッシズムに踏み出す
「保守総掛り」政治の到達点は、「ファシズム」である。日本を「米中戦争」に動員するためには、「『安保』ファシズム」が必要となる。
このような中で、保守政党の「基軸の転換」が進んでいる。民主党は、自民党「民主派」化(小沢派切りで)。自民党は、戦争政党化(自民党的ハト派の封じ込め)。公明党は、無定形政党、何にでもなることができる政党。
民主党、自民党の党首とも、集団的自衛権の行使と改憲を訴えており、両党は、「『安保』ファシズム」の実現に踏み出した。そのため、ファシズム志向の橋下徹氏を率いる「日本維新の会」を利用しようとしている。また、大マス・メディアが請け負い、デマゴギーも始まる。
反ファッシズム統一戦線を
「保守総掛り」体制によって「『安保』ファシズム」が作られようとしているならば、これに対抗する「国民総掛り」体制が、「反『安保』ファシズム統一戦線」として形成されることが求められる。
その「統一戦線」の「原則」として、「参加資格の平等」「反共主義の克服」「寛容主義の堅持」などをあげ、スローガンとして、「日本国憲法の『全面的開花』」「『平和的福祉国家』の樹立」を掲げた。さらに、「東京革新懇」の課題として、「一般社会で認められる存在になるための活動」などを提起した。
(注)アメリカ経済が、中国に勝てなくなった時の最後の手段として「米中戦争」を考えている。


2012年9月2日日曜日

 なぜマスメディアは
「市民目線」を失ってしまったのか
   東京新聞「こちら特報部」
   総括デスク 野呂法夫さん
     中野区革新懇が総会と記念講演
原発事故、消費税増税などの報道を契機に、国民は、マスメディアの報道姿勢に不満を募らせています。このような中で、中野革新懇は7月22日に、東京新聞「こちら特報部」総括デスクである野呂法夫さんを招き、講演会を開催しました。「こちら特報部」の一連の原発報道は高く評価され、「日本ジャーナリスト会議(JCJ)大賞」「新聞労連大賞」を受賞しています。

特報部はどんな組織?
野呂さんは、特報部は総勢12人の少数だが独立した部なので、「記者クラブと発表(官製)ジャーナリズム、セクショナリズム(持ち場主義)」から自由で、独自の問題意識と取材で記事が書けると紹介、それが特報部の特徴だと述べました。

当局発表に依存しない原発報道
福島第1原発事故について、13日朝刊で「炉心溶融の衝撃」「『絶対安全』甘すぎた」の見出しで報道。これは記者クラブや政府の発表待ちでは書けない記事で、これまで原発事故の現場や国の高すぎる許容放射能の設定問題などを追及する報道を続けてきた。
いまだに「安全神話」をつくった「原子力ムラ」にとどまるメディアもある。これは記者が、市民目線に立っているかどうかが問われる問題だと指摘しました。

JCJ大賞、新聞労連大賞を受賞
「こちら特報部」の誌面では、原発反対集会を積極的に取り上げ、許容被ばく線量問題にとどまらず、「原発安全神話」の虚構、電力会社の需給予測のごまかし、大飯原発再稼働を巡る関電や政府の言い逃れなどの追及と検証を行った報道が評価され、2012年度「日本ジャーナリスト大賞」(注)、「新聞労連大賞」を受賞したと語りました。

市民の記録者でありたい
さらに、原発に対する見方は社内でもいろいろだが、私は「市民の記録者」でありたい。人間の記憶の半減期は短い。それだけに記者として書き残すべきことを記事にしていきたいと決意を述べ、「3.11以降、日本は変わらなければならない」「官邸前デモは新しい民主主義の胎動」と講演を結びました。
(文責、編集部)

(注)JCJ賞・贈賞式(811日)における講評;「メディアの権力チェックが弱まる中、原発事故をめぐって大本営発表報道が続き、将来の歴史の評価に耐えられない状況だった。そのメディアの危機を、市民の立場で厳しく継続的に追及してきた特報誌面が救ってくれた」(柴田鉄治JCJ代表委員)

2012年7月19日木曜日

 家庭用料金が高くなる仕組みの見直しを

   東京電力の電気料金値上げを考える

鈴木 章治さん(「世界&日本のエネルギー労働者と連帯する会」代表理事、元東電労働者)
 
 事故を起こした経営責任の欠如露わ
 電気料金値上げの公聴会を経産省HPで知り申請し7日の東京会場で陳述したが、東京会場10人、埼玉会場5人と少ないのに驚いた。経産省はHPを見ろという姿勢、陳述が少ないのは経産省に国民に知らせる姿勢がないからだと経産省に意見をあげた。
 今回の値上げのきっかけは、原発事故でが、いま現場の現状は「砂上の冷温停止状態」。全て仮設で綱渡りの危険な状態が続いている。東電は、事故の最大の要因が「安全神話」にあるにもかかわらず、全く反省がなく、津波対策を怠った「人災」との指摘も認めとせず「予想外」を繰り返している。それに加えて、申請は、刈羽崎刈羽原発の再稼働を前提している。その様な値上げは認められないと陳述した。
 原発の再稼働が前提
 東電は「全原発停止で、火力発電の燃料費が増加した」ことを値上げの理由にしているが、この理由の正当性は全くない。事故を起こしたのは東電だ。しかし、その東電は事故原因の究明を怠り、安全神話への反省が全くない。
 原発ゼロに向けて国民的な運動が起こり、再稼働への批判が高まっているなか、政府も議論の途上なのに今度の値上げには柏崎刈羽原発の再稼働を前提とし、いわば原発依存の先取りだ。
儲けを補償する総括原価方式の見直しを
電気料金は、「適正費用十公正報酬」を内容とする総括原価方式で決めている。値上申請を見ると、総原価57624億円のうち、約2247億円が核燃料費、福島原発の修繕費など原子力関連費用で占めている。第2原発の復旧費用、第一の維持費用も原価に組み込まれている。これらは再処理積立金などから引き当てるべきだ。原発関連コスト分をカットすれば、値上げ率を半減することができる。
 公正報酬とは電力会社の儲けの保証、申請では事業資産価値(レートベース)の3%が事業報酬だ。一部を除き原発資産も対象になっている。報酬率3%も現在の金利状況からみても高すぎる。これは国民感情にそぐわない。
 家庭用料金が高くなる仕組みも見直しを
 大企業など大口電力と家庭用の電気料金の格差が指摘されている。発電から需要家までの設備の違い、その間の送電ロス、電気の使われ方によって格差が生じると説明している。遠距離・大規模電源を作り、超高圧から家庭用100V200Vに下げるのに変電設備が幾重にも必要というのは電力会社の理屈で、現実に家庭用でも3段階料金など個別原価配分が事実上崩されている。電力会社以外の新電力(PPS)が広がりるなかでこの仕組みも見直すぺきである、
 原発に依存しないエネルギー政策の確立を
 電力会社は、大規模・遠隔地立地、超高電圧電源開発で高額の設備投資を行っても、電
気料金で回収できる仕組みのなかで、利潤追求・効率性を追及する経営をすすめてきた。
これからは、太陽光や風力など自然エネルギーの開発・促進、地産地消の電力システムの構築など、抜本的な電力政策の転換が求められている。 
 「人件費削減をどう考えるか」との質問に答えて、「一般社員は既に年収2割の削減が行われ、平均年収は556万円。中小企業と比べて高い水準だが現実にローンの支払の滞りや今後10年続くと言うことで働く意欲を低下していることも現実。同じ人件費に含まれる役員報酬の削減は当然であり、原発コストや事業報酬など人件費削減よりも減らすべきコストはあるのではないか」と述べました。


2012年6月1日金曜日

    マスコミで何が起きているのか

        マスメディアとジャーナリズム

            ジャーナリスト 丸山重威東京革新懇代表世話人

大震災、原発事故、TPP、消費税など、日本の将来にかかわる重大事件が相次ぐ中、大手メディアが、ジャーナリズムの批判的精神を忘れ、政府・財界に追従する翼賛報道を続けており、国民の批判が強まっています。そこで、5月の代表世話人会の「話題提供」として、新しく代表世話人に就任された丸山重威氏(元共同通信記者)が、「マスコミで何が起きているのか?原発、消費税、TPP・・・」と題して、講演しました。
 丸山氏は、マスコミは信用を失っている、マスコミは今まで何をしてきたか、事件をどう報道しているかが問われていると切りだしました。
《マスメディアの産業的危機》
 インターネットの普及で、メディア環境は大きく変化した。新聞購読者は激減、2000年に5300万部だったが、2011年では4800万部に減少している。かつて、一世帯1.2部だったが、現在は0.9部に下がっている。新聞、放送、出版、雑誌の広告費が減少する一方で、インターネット広告費が伸びている。このような中で、商業主義が蔓延し、マスメディアの社会的な意義であるジャーナリズム、すなわち報道と論評、権力批判と行動への指針提起が軽視されてきている。

 《「安全神話」と発表報道の限界》

マスコミは、「原発安全神話」に対し、その危険を報道せず、原発3法の「札束」による推進政策を批判してこなかった。福島原発事故では、政府・東電の記者会見内容をたれ流し、批判はサシミのつま程度。「発表報道」に追われた、放射能、損害賠償、コミュニティの破壊、原発訴訟などの課題についての「調査報道」が弱かった。使用済み核燃料の最終処分、原発労働者の被曝など原発の非倫理(「わが亡き後に洪水よ来たれ」)を告発する必要がある。
丸山氏は続いて、「『社会保障と税の一体改革』とは何か」「対米従属外交をどうするか-TPP、普天間をどう報じるか」「憲法と民主主義の危機・・・憲法情勢2012、『橋下現象』、情報保全法」など、マスコミ報道の問題点を、多くの資料を使って解明しました。終わりに、次のように述べました。

《マスメディアとジャーナリズム》

情報コントロールは新しい段階に来ており、「情報栄えてジャーナリズム滅び、ジャーナリズム滅びて民主主義亡ぶ」(原寿雄)と指摘されている。マスコミは「第4の権力」と言われているが、立法、司法、行政VSメディアなのか、立法、司法、行政、メディアVS国民なのか。メディアは「国民支配の道具」か、「改良」は可能なのかと問い、「新聞を国民のものとする運動」を・・・・。そして、「改めてジャーナリズムを取り戻すために」、既成メディアへの批判とともに、オルタナティブ・メディアの活性化が課題であると、結びました。(文責、編集部)

2012年4月27日金曜日

 「貧困と格差」のない社会をめざして
  福祉国家型の生活保障システムを
             都留文科大学教授 後藤道夫
 
 民主党政権が構造改革の急進的再開に踏み込んだ今、それに立ち向かう福祉国家型生活保障の原則を広く議論し、社会危機からの脱出の方向を明ら かにする必要があろう。
 
昨年秋に出た「社会保障基本法・社会保障憲章二〇一一」のエッセンスを紹介しながら議論に参加したい。
 福祉国家型の生活保障は、以下の四つの施策領域の有機的な組み合わせを骨格として構想される。
 ①労働権保障、②居住の権利の保障、③基礎的社会サービスの公的責任による現物給付、④重層的で空隙のない所得保障。
 
このうち、②と③は生活の土台・基礎的環境にかかわるものだ。所得保障をするから、後はそのカネで何とかしろ、というのではなく、所得保障と別立てで保障 する。
労働権の保障
 
①は、適職・かつ生活可能な職で働く権利の保障である。その大前提は、労働者本人分の生活費を賄える賃金水準、および、失業時の生活保障である。この二つ とも、日本では実現していない。
 日本の失業者はその5人に1人しか失業時保障を受けていない。こうした状態だと、失業者は悪条件の職にも就かざるを得ないため、労働条件の 全般的低下が生ずる。これは90年代末以来の非正規急増、賃金大幅低下、長労働時間の蔓延を可能にした大きな要因である。
 雇用保険の抜本改善と「失業扶助制度」創設が急がれなければならない。これは④の一部でもある。
最低生活費の1.5
  失業時・傷病時の所得保障が最低生活費を下回るのはおかしい。そうだとすれば、傷病手当は従前賃金の67%だから、フルタイム最低賃金月額は生活保護制度 による単身者最低生活費の1.5倍をこえる必要がある。日本の現状はこれとほど遠い。
 「賃金額、社会保険給付額、生活保護の給付額」という順番が、日本では実現しておらず、賃金額と単身者の生活保護給付額すら容易に逆転す る。これでは所得保障のまともな設計はできない。低賃金は社会保障の不倶戴天の敵なのである。
所得保障の原則
 勤労の条件がある人には労働権を保障し、勤労を期待されない人びと(子ども・高齢者・障がい者など)の基礎的生活費については、社会がこれ を本人に保障すべきである。
 子ども手当はすべての子どもに支給されるべきだ。これは社会が負担する子どもの基礎的養育費だから、その額は生活保護給付の子ども一人分で よい。親が負担すべきだという人は、フルタイム最低賃金額を、子どもを含む人数分の生活費の1.5倍と主張すべきだろう。
公的責任で現物給付
 基礎的社会サービス(保育、学校教育、医療、介護、障害者福祉サービス、職業訓練等)は、必要が生じた時には受けないと生活が大きく損なわ れる。サービスを確実に給付するには、必要が生じた人に無条件で、サービスの現物給付を公的責任で行えばよい。
 商品としてのサービスをカネを払って買うシステムでは、必要が充足できない人びとが多数生まれる。介護保険をみれば明らかであろう。
 
肝心なことは、基礎的社会サービスの給付と財源確保とを切り離すことである。財源は一括して、別に、応能負担の税や社会保険料で集めればよい。
福祉国家型財政と賃金上昇で経済低迷から脱出
 日本企業がEU諸国なみに社会保険料を払うと、わが国の社会保障財政は26兆円ほど豊かになる。所得税を総合・累進課税の原則に戻し、法人 税への優遇税制をあらため、富裕税をつくる。賃金上昇と社会保障による国内消費活性化は、長期経済低迷を打開するだろう。

2012年4月4日水曜日

「大阪維新の会」をどうみる?                         「安保ファシズム」を阻止し、「平和的福祉国家」の樹立を                       代表世話人 金子勝(立正大学教授)

2011311日の大地震災害と原発大事故に遭遇して、民主党政権に裏切られていた国民は、自己の危機感・不安感を払拭してくれる政策とそれを実現する強力な「ヒーロー」を期待しているのではないか。3月代表世話人会の「話題提供」において、金子勝代表世話人(立正大学教授)が、「しのびよる地方・中央からのファシズムを許さず、国民が主人公の政治をめざして」と題して、「安保ファシズム」の危険な動向に警鐘鳴らし、革新懇運動発展への期待を熱く語りました。
 
歴史の転換点=3・11
「3.11」は、国民にとっても、アメリカと日本の支配層にとっても、日本国の“あり方”を問う歴史の転換点となった。なぜならば、「3.11」は、国民には、生命・生活・地域の崩壊の「危機感」を抱かせ、米日支配層には、①原発が廃棄となったら、日米安保条約に基づく「米国主導型米日核軍事同盟体制」が維持できなくなる、②被災者を中心とする国民が、民主党政権打倒に蜂起したら、自己の政権が失われるという「危機感」を抱かせた、からである。

「新しい国作り」に着手
 米日支配層は、支配の危機を克服するために、「新しい国作り」に着手した。
原子力発電推進のための原発事故の早期収束化、「女性宮家」の創設による天皇制の強化、社会保障の切り捨てと消費税増税のための「一体改革」の実現、民主主義抹殺のための衆議院の「小選挙区制」の維持と「比例定数」の削減、「武器輸出三原則」の緩和・「動的防衛力」の構築などによる軍事力の大強化、日米同盟強化のための辺野古への新米軍基地建設、アメリカへの日本市場の全面的開放と「大東亜共栄圏」の現代版作りのためのTPP参加など。
すなわち、「新しい日本」は、対内的には、米日の大企業・大資産家「本位」主義が貫かれ、国民は、「没民主主義」・「弱肉強食主義」で「棄民化」状態となる日本、対外的には、対米従属的「戦争国家」とをもつ日本となる。

 保守政党のメルトダウン
「新しい日本」を作るためには、“強力な権力”が必要となり、それに対処するために、保守政党の“総掛かり体制”が形成された。二大政党の「対決」政治から「協調」政治へと、保守政党の「溶融化(メルトダウン)」が始まった。国会では、表向き対決を演じながら、裏では密室談合で悪法を成立させている。「総保守独裁内閣」が生まれ、日米安保条約に基づく「『安保』ファシズム」が形成される危険がある。

橋下氏はペースメーカー
「大阪維新の会」代表の橋下徹氏(大阪市長)は、米日支配層のファシズム志向を嗅ぎ取って、その「ペースメーカー」となろうとしている。マス・メディアも橋下氏に対する翼賛報道を通して、国民をファシズムに導こうとしている。

革新懇の課題は
国民がファシズムの道を歩むことがないよう、革新懇は、反ファシズム憲法である日本国憲法の「全面的開花」とそれを実現するための「平和的福祉国家」の樹立をめざして、折り折りに提言や提案を発していかなければならないし、且つ、反米反ファシズムの「統一戦線」作りを提起しなければならない。(文責 編集部)

2012年2月29日水曜日

比例定数削減問題と議員・国会・選挙制度                       
藤本齊
自由法曹団東京支部長


 民主党政権は、「社会保障・税一体改革大綱」の中に、「衆院定数80削減」を明記しました。消費税の大増税計画を押し付ける際に、「自ら身を切る改革を実施した上で」と称して、比例定数削減に躍起となっています。しかし小選挙区制の弊害が露わとなる中、民意を正確に反映する選挙制度への抜本的な改革こそ求められています。議会制民主主義の根幹にかかわる問題であり、220日に開催された代表世話人会の「話題提供」において、藤本齊代表世話人(自由法曹団東京支部長)が、『比例定数削減問題と議員・国会・選挙制度』と題して報告しました。その概要は、次の通りです。
最高裁の判決(2011年3月23日)は、衆院選挙の「一人別枠方式」は憲法の「投票価値の平等」の要求に反しており、その廃止・是正を求めている。憲法13条に基づき、すべての選挙人を「一人前に扱え」ということである。しかし、定数を削減するという議論は、最高裁判決の精神からさえもドンドンとずれて、逆走突進中なのである。小選挙区制の導入で、国会は民意とかけ離れ、議員の劣化が深刻である。
衆院選挙制度の各党協議会では、民意をゆがめる現行の小選挙区比例並立制を見直すべきという意見が多くだされたが、樽床座長は2月15日に、座長私案として「比例定数80削減」を提示し、「比例定数の削減に伴い民意が過度に集約されることを補正する措置を講ずる」として連用制に言及した。
連用制はどの国でも実施されたことがない選挙制度で、公明党が提唱したものである。連用制は、小選挙区と比例代表を組み合わせた選挙制度のひとつで、比例代表議席の配分を、得票を「小選挙区の獲得議席+1」から順に割った商の大きいものから配分する。小選挙区議席を獲得できない中小政党に比例代表議席が優先的に配分されるため、現行の並立制に比べて中小政党が議席を得やすくなる。
「連用制」はよりましの制度か?連用制も小選挙区と比例代表を組み合わせた選挙制度で、その結果、小選挙区で議席を得られない政党は、比例区でも支持を失い、後退していかざるを得なくなる(「小選挙区効果」)。また、連用制の固有の問題点として、投票行動の結果や投票意思が恣意的に操作され、選挙が混迷することが指摘されている。(自由法曹団作成のパンフ『小選挙区比例代表連用制を検証する』を参照してください。)さらに自民党の議員から、「連用制」ならば「1票制が筋」と反論されており、「1票制連用制」は、少数政党排除の「切り札」となる危険がある。 
しかも政府・民主党は、比例定数の削減とセットで連用制を提案しており、比例定数の割合が低下すれば、得票率と議席は対応しなくなる。
結局、現行の小選挙区比例代表並立制の集約(「小選挙区」)と反映(「比例代表」)の二兎追いの矛盾とゴマカシが破綻してしまっている。議会制民主主義を再生させるには、小選挙区制そのものを廃止し、民意を正確に反映する選挙制度へ抜本的に改革するしかない。(文責、編集部)

2012年2月4日土曜日

野田政権の悪政を斬る~民主党政治の暴走と政治の劣化を食いとめるために~
法政大学教授 五十嵐 仁

法政大学大原社会問題研究所の五十嵐 仁さんの、東京革新懇総会(2012年1月28日)での記念講演「野田政権の悪性を斬る」をご紹介します。
冒頭、「小泉政権後、自民党政権3年で3人の首相、民主党政権3年で3人の首相」と韓国で話したら「信じられない」との反応があったことを紹介、どうしてこれほど不安定になったのか、問題を提起しました。

1、野田政権の暴走と民主党政治の迷走
 短命政権には、小選挙区制という制度的背景と、反国民的政策という政治的な背景がある。野田政権は「自民党返り」を鮮明にしており、短命・選挙での敗北は避けられない。
 急浮上したTPPはアメリカ好みの社会改造であり、「社会保障と税の一体改革」は、社会保障を餌にした増税が狙いである。しかし、この間、消費増税は、所得税・法人税の減で税収をもたらさなかった。税収増のためには、大企業減税の中止と内部留保の課税強化、所得税への累進強化、金融取引への課税強化などを実施すべきである。

2、政治の劣化の背景としての政治改革
 「政治改革」は、「リフォーム(改革)詐欺」で、国民の民意から乖離してしまった。小選挙区制の導入は、二大政党化による小政党の排除、理念・政策に基づかない政党の登場、二大政党の政策的な接近、短期間による多数派政党の入れ替わりとねじれ現象など害悪が明らかになった。比例代表選挙を基本とした選挙制度に転換すべきである。ところが、消費税増税前の「無駄」削減として、政府・民主党は比例定数80削減の動き。

3、「3.11」後が指し示す新しい政治と社会への展望
 震災復興をめぐる2つの道の対決(構造改革型か新福祉国家型復興)が、激しさを増大させている。自然災害を利用した「日本型ショック・ドクトリン(ナオミ・クライン)」による大資本の階級支配を許してはならない。
 「原発ゼロ」と自然エネルギーへの転換は、地域に雇用を生み、地方を再生させる新しい可能性がある。
 「ワーキングプア」「過労死」「サービス残業」をなくすなど、新しい社会に転換する生活と労働の刷新が求められる。被災者救援で奮闘した公務員の給与削減、減員を行わず士気を高めることが必要である。
 世界的な規模で新たなうねりが生じている。日本での「年越し派遣村」などの反貧困運動、北アフリカ・中近東の「アラブの春」の波及、アメリカでの「99%運動」の拡大、日本での脱原発デモへの青年の参加、TPP反対運動への農家や医師、中小業者の参加など、新たな共同の可能性、政治革新に向けた社会的条件が広がってきている。

 世の中を変える「知力革命」を
最後に、「騙した者はもちろん悪いが、騙された側にも責任がある」の至言を引用し、誤りを知っていても多数派にならなければ、被害を受けると指摘、「賢い市民」となって世の中を変える「知力革命」を熱く強調しました。  (文責、東京革新懇編集部)