2011年8月12日金曜日

比例定数削減をめぐる“せめぎ合い”とたたかいの展望   

 620日の東京革新懇代表世話人会では、「話題提供」として、重大な課題である「比例定数削減問題」を取り上げ、坂本修弁護士にお話していただきました。講演内容を補強・整理したものを掲載いたします。

比例定数削減をめぐる“せめぎ合い”とたたかいの展望  
                    弁護士 坂本 修
 大震災を口実にして、迫りくる策動
 3.11大震災、原発大事故に直面し、支配勢力は、その“影”にかくれて、反動政策を一気に進めようとしています。その一つが衆議院の比例定数削減で、「国難」を口実とした「大連立」策動も急浮上しており、民主、自民が談合して実現を図る危険が現実化しつつあります。財界が支援し、マスコミも応援しており、油断できません。

 検討されている「比例全廃、3人区」案―動き出した自民党
 民主党は「比例定数80削減」を方針として掲げてきました。自民党も動き出し、定数削減に賛成しているものの比例削減に反対している公明党と「みんなの党」をとり込むため、比例全廃、原則定員3名の中選挙区制案(総定員数は「3割削減」)が検討されています。
自民党の森喜朗元首相は、①震災復興・原発事故対策、②税と社会保障の一体改革、③選挙制度、④憲法の懸案事項で、各党が話し合う「4つのテーブル」を設けるべきと指摘、「一つ目と二つ目は言わずもがな。3つ目の選挙制度も最高裁大法廷が『違憲状態』だと判断したんだから待ったなしですよ。僕は3人区を基調とした中選挙区制に戻すべきだと思っているけどね。だって小選挙区制が何をもたらしましたか。国会議員の質の劣化だけだ。」(「産経」69日)と語っています。この案は、民主党案以上に、少数意見を排除し小政党を抹殺するものです。

選挙制度を改悪する動機
 民主、自民、そして財界と執拗に選挙制度改悪を策動する深部には、支配者の“三重の動機”があります。
1の動機-小選挙区制導入、二大政党制で支配層は一定の「利益」を手にしましたが、安倍首相のもとでの9条明文改憲の挫折など思惑通りに進まず、また「二大政党離れ」による政局不安定に危機感を抱いて、その反動的「解決」を図るということです。
2の動機-国民に背を向けて、さらなる構造改革の推進、日米軍事同盟「進化」強行、そして9条改悪に至る強権“壊憲”国家への「国家改造」の実現です。
3の動機-悪政反対、ぶれない対抗軸をもつ政党の国会からの排除です。なぜなら、議席が少なくとも、国民の要求運動と響きあうと「危険な存在」となるからです。
 「政権交代」、参院選でのきびしい審判、そして3.11以後、さらに深まらざるをえない矛盾に支配者の危機感はかつてなく強く、まだ国民の政治選択が定まらないうちに、民意切捨ての強権政治のための決定的な仕組みをつくりたいという強い執念を、彼らはもっているのです。

世論に反する、原発推進・改憲の2大政党
しかしながら、比例定数を削減する選挙制度改悪の策動には、大きな弱点があります。小選挙区制導入以来の17年間の悪政の数かずの現実に照らせば、民意を歪め、切り捨てる現行制度の害悪は、広く明らかになっています。かつての大義名分(構造改革、政権交代、「カネと政治」の解決)はもう使えません。また、巨大な人災に直面して「2大政党制」の実害が劇的な形で国民に知れ渡ってきています。「(原発推進、消費税アップ、改憲の)2大政党にまかせろ」「(国民の要求を掲げる)少数政党は無用」という主張は、国民多数に通用しなくなっています。

取り組みの強化を
「ムダを省く」「議員も身を削る」という宣伝は軽視しませんが、事実と道理で打ち破ることができます。小選挙区制度の現実と、未曾有の大災害は、憲法の生きる日本にする以外に道がないことをかつてなくはっきりさせています。「時代閉塞」を破り、平和に、安全に、人間らしく生きられる、まともな政治に変える、そのために、民意を切り捨てる選挙制度改悪を許さず、私たちの一票が生きる選挙制度を求めて、「あせらず、急いで、腰を据えて」取り組みを進めようではありませんか。

2011年8月4日木曜日

今こそ私たちは研究者・教育者として「志し」を語ろう

       古賀 義弘(嘉悦大学前学長 練馬革新懇共同代表) 
 この3.11大震災と東電福島原発事故は、あまりにも大きく悲しい犠牲を生み、今なおさまざまな不安と怒りが渦巻いています。そして福島原発事故は人の存亡さえも左右する事態をも招いていて、その解決の見通しも立っていません。このような事態を、私たち研究や教育に携わる者として見過ごしてしまう訳にはいきません。
大震災や原発事故に対して、全国の研究者から積極的な発言や行動が相次いでいます。深い学問レベルから指摘する意見、国民に広く啓蒙するための提起や解説が行われており、そのことが国民の研究者への信頼と期待になっています。まさに研究者の社会的使命がここに体現されており、頼もしくまた心強い限りです。

翻って私自身が「なぜ研究者への道を選んだか」と自問自答すると、知らないことを知りたい、問題の問題たる所以を明らかにしたい、そしてそれを追求し、研究することで世の人々や社会に、ほんのわずかかも知れないが役立てたいとの思いからでありました。その過程で学生に対して、自分の専門分野から「社会や人間を洞察し、どのように生きて行くのか」との問題を提起する仕事に情熱を傾けてきました。その意味では、少なくとも「志し」を持って取り組んできたとは思っています。
人によって比重のかけ方や濃淡はありましょうが、少なくとも研究や教育に携わる人は一定の「志し」を持ってその職につき、それは現在も脈々と流れているものと思っています。私は今回の大震災と福島原発に直面し、研究者・教育者として発言しなければならないことは発言しよう、それが社会的責任であると改めて思いました。
7.2原発ゼロをめざす緊急行動」が明治公園で開かれました。福島の皆さんや松山の学生さん等を含む2万人が参加するという、近年にない大きな集会でした。その呼びかけには数人の研究者や弁護士の先生方も入っておられ、専門分野に閉じこもることなく社会的な役割を果たされていることに強い刺激と尊敬の念を持ちました。
炎天下の会場で、研究者仲間の姿を探しました。顔を存じ上げている方も見かけました。しかし人が多かったせいか、親しい研究者仲間にはついに出会うことが出来ず、知人のいる隊列に入れてもらいパレードに参加しました。
人それぞれに都合があります。思いも違います。それは当然のことです。その思いや違いに立って、研究者・教育者として私たちは、今何を考えなければならないか、何をなすべきかについて考えることがとても大切な時期であると思います。
今問われていることの一つは、研究者が社会に向かって発言する事ではないでしょうか。「御用学者」という言葉も聞かれます、研究費配分や昇格・昇進に研究以外の力学が働いているということも聞こえてきます。これは研究や教育の場にある者としてとても悲しいことです。敢然と決別しなければなりません。
私たちは今こそ、「何故研究や教育を志したか」の原点を再認識し、その「志し」を自らの学問領域や教育の場で、そして社会に向かって広く語ることが大切であると思います。少しでもより良い社会を実現するために力を発揮する事、これが私たちの社会的責任の一つであると改めて考えています。

2011年8月1日月曜日

貧困と格差のない社会をめざして②

「住居における格差―住まいの貧困」
          坂庭 国晴(国民の住まいを守る全国連絡会・住まい連・代表幹事)

 多少固いタイトルになっていますが、「貧困と格差」が具体的な形で現れる重要な部面として「住宅」があります。突然ですが「アメリカン・ドリーム」をご存知と思いますが、その大目標に「大きな家に住むこと」があります。ご当地アメリカでは数年前の「サブプライムローン」の破綻による住宅危機で、「ドリーム」はあまり聞かれなくなりましたが、日本では今でも実現されています。それが「思いやり予算」によるアメリカ軍人用の住宅です。普通の家族住宅で4寝室、広い居間と浴室・シャワールーム付き、約50坪(160㎡)、1戸当り建築費約4,800万円というものです。公営住宅は平均約50㎡(15坪)ですから、3倍もの広さと設備水準があり、建築費も3倍以上です。
 その公営住宅には、年間90万世帯の応募があり、そのうち入居できるのは約10万世帯で、多くの人たちが「健康で文化的な最低限度の生活」の基盤ともいえる公営住宅にも入れない現実があります。余談ですが、東京に「アメリカンドリーム」という不動産会社があり、物件紹介に「御殿山ガ―ディンシティ、2LDK、家賃23万円」とありました。もともとわが国では、お金持ちは良い住宅に住めるが、貧しい人は劣悪な住宅に住まざるを得ない、という所得格差付き、階層格差付きの住宅政策がとられてきました。所得の多寡によって住む家が決められてしまうという、「住居における格差」が戦後政治の中で継続してつくられてきました。
それが近年の「貧困社会」が生まれる中で、格差による深刻の度が深まり、「住まいの貧困」(ハウジングプア)という重大な問題が起こっているのです。わが国の貧困率が「最悪の16%」(09年)になったことが7月12日の厚労省の発表で明らかになりました。前回調査(06年)の「15.7%」(09年10月発表)を上回ったのです。筆者はこの時「15.7%の要因に都市・住宅政策あり」という一文を書きました(「建築ジャーナル」誌・09年12月号)。そこでは、「公営住宅は『建てない、入れない、追い出す』の3大改悪が行われ、・・・」など、「構造改革路線のもとで全面的な(住宅の)市場化が追求され、公的責任の放棄が行われてきた」ことに言及しました。貧困率16%には、全世帯の32%が年収300万円未満という低所得層の拡大が含まれています。
民主党政権のもとで、構造改革路線の復活が行われ、格差付き住宅政策が続けられています。とりわけ東日本大震災でのホームレスの増大をはじめ住まいの貧困状況が拡大する中で、重大な危惧が今の政治に向けられています。ハウジングプアを無くすために「住まいの貧困に取り組むネットワーク」を2年前、NPOもやいの稲葉剛代表理事と共に設立しました。「住まいは人権」(人間にふさわしい住居に住むことは基本的人権)の実現、住宅政策の転換をめざし多くの仲間とともにたたかいに立ちあがっています。