2018年12月29日土曜日

大深度法は憲法違反
改めて外環道問題を考えよう
    丸山重威 ジャーナリスト 東京革新懇代表世話人 
東京の西部、関越道から東名高速東京インター間(練馬、杉並、武蔵野、三鷹、調布、狛江、世田谷)で建設が進んでいる東京外環道が問題になっている。今年は南アルプスを貫くリニア新幹線の工事も本格化する。住民の意思を無視して進む建設は、辺野古、原発などでも同じ。本当にこれでいいのだろうか。
 東京外環道では、無関係のはずの地下40mの掘削現場から、酸欠空気が地上に上がり、野川の水面でぶくぶくと泡を立てたり、塀で囲ったヤードに地下水が浸水。立法当時の前提の「想定条件」が大きく崩れている。
 昨年12月、訴訟に踏み切った住民は、問題を指摘した「住宅の真下に巨大トンネルはいらない! ドキュメント東京外環道の真実」を出版。
1215日午後7時から、武蔵野公会堂で、「提訴1周年記念集会」を開いて、闘いの決意を固めた。
計画→凍結→地下化
  東京外環道は、約60年前、高度成長政策華やかな1950年代後半に企画され、東京五輪後の1966年、都市計画決定された。しかし、住民の反対で、70年には、根本龍太郎建設相が「凍結」を宣言。約30年間動かなかった。
 しかし自民党政権は88年、行革審・土地対策検討委が「大深度地下の公的利用に関する制度の創設」の検討を求めた提言を出したことを受け2000年5月「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法」(大深度地下法)を成立させた。土地利用を上下に拡大し、狭い日本の土地開発を進めようとする土建業界や財界の発想の具体化だ。
 日本国憲法は、財産権を認める一方で、「正当な補償の下で公共のために利用することができる」と規定した。問題は、大深度地下法が①地下40m以深か基準杭の支持地盤上面から10mのいずれか深い方の地下を「大深度地下」とし使用認可の対象としたこと②しかし、法律に「補償」の規定はなく、住民は何の通告も受けず自分の土地の地下が掘られ、いつの間にか都市計画法の建築制限を掛けられて、財産価値も低下、危険状況が造られていること―だ。 
異議申し立てから裁判へ 
  政府・自民党は、この「大深度地下法」を根拠に、2007年関越道―東名高速間の外環道を地下方式とする都市計画変更を決定。09年の国土開発幹線自動車道建設会議(国幹会議)を経て、2012年9月着工した。
 反対運動を進める住民は、国交省、都、事業者の東日本高速道路会社、中日本高速道路会社の事業者側の要請に応じ、「PI(パブリックインボルブメント)協議会」での話し合いに応じたり、説明会や事業者との個別の交渉、「外環の2」といわれる武蔵野、練馬の地上部分についての訴訟など、様々に反対、抗議活動を続けてきた。
 しかし当局の対応は変わらず、住民側は、大深度地下使用認可と都市計画事業の承認、認可について、約1200件の異議を申し立て、口頭陳述も実施した。当局はすべて棄却・却下。このため、住民は2017年1218日、13人の原告が無効確認などを求め行政訴訟を提起した。 
地下から酸欠気泡 

実際に何の相談もないまま、自分の住宅の下、40mの地下に、直径16mのトンネルが掘られることは、想像しただけでも不気味だが、巨大マシンがモグラのように地下を進む中で、5月には「関係がない」とされた地上にまで、酸欠の気泡が上がって来た事件があり、住民の不安は一段と高まっている。
 地下トンネルでは、他のトンネルでの工事中何人も死んだ事故あったり、地下水の水質、水位の変化、枯渇、地盤の沈下、陥没、地震の影響などが予想される危険が大問題だが、同時に、1兆6000億円もの巨費を投じてこの道路を建設する意味があるのか一方的に建築制限が掛けられ国の先買い権が発生する大深度の問題をどうするのか。何の回答も出ていない。
 国民の生命、生活を無視、建設事業をごり押しする政権の姿勢。国土破壊を止めるためにも政治の変革が必要だ。

2018年10月31日水曜日

日本をめぐる連立五元方程式を平和の答で成立を
     丹羽宇一郎 元中国大使 元伊藤忠商事会長

 9月30日、東京革新懇学習交流会の丹羽宇一郎さんの記念講演要旨をご紹介します。

戦争を語り伝えていくこと
最初に、私が非常に気にしていることを申し上げる。戦争というものに対しての感覚が非常に鈍くなってきている。田中角栄は「これからの世界で一番危ないのは、戦争の体験者が世界のリーダーの中から一人もいなくなることだ」と語っていた。トランプやプーチン、安倍首相、習近平も体験がない。戦争体験者は「戦争」というとイメージがフラッシュバックのように思い出す。中国の友人で非常に有名な幹部と話しをした時、彼にとって戦争というと日本軍の侵略をすぐ想い出すと言うのです。日本軍が中国人を戦車で踏みつぶして行ったことや、親族や子どもが殺されたことが、蘇るのだと語っていた。「それを君は忘れろというのか?」と問われた。戦争はいかにひどいものであるかを経験者が生きている間に、後世に伝えていくことが今一番大事だと思い、私は「戦争の大問題」という本を書いた。 
戦争体験者は90歳以上がほとんどだ。人に語れないことをたくさんやっている。縛られた中国人を刀で突き刺した体験、住人を虐待し、凌辱される女子を何も助けられない無力の人々を見ていた体験。書いてもいいかと訊くと「後世に伝えなくては死ねない。最後の機会だと思う」と語ってくれた。
「チムグリサ沖縄」という沖縄の戦争体験者を取材して書かれた本がある。本を読んで涙を流すということはめったにないが、この本を読み私は怒りで涙を流した。「チムグリサ」とは「ああ、哀れだな」という意味だ。沖縄の県民がいかに戦争の被害を受けたか。女、子どもが凌辱される。たくさんの人が被害を受けた。 
私は「戦争には近づくな」をモットーとし、共謀罪など戦争に近づくようなことは全部反対だ。
日本の5つの連立方程式
日本には連立一次方程式が5つある。答えが一つならば連立五元方程式と言える。中国-日本、アメリカ-日本、韓国-日本、北朝鮮-日本、ロシア-日本、日本を中心とした5つの方程式だ。「平和」という解答しか五つに共通するものは無い。日本が考えなくてはならないのは日本を取り巻く5カ国との関係を「平和」という答えで連立方程式として成立させることだ。
ロシアとの関係
歴史認識の甘さが、北方領土への墓参などでさえ時間がかかる政府の協議に出ている。ロシアが、軍事基地をふたつ持ち、投資をし、新しい戦闘機を導入しているのは、択捉、国後。4島の土地の面積97%を占めている二島だ。歯舞、色丹は大まかに言えば警備部隊しかいず、軍の基地も無い。択捉、国後を日本に返すとなったら、軍事基地はすぐ日米同盟でアメリカが使う。百も承知のロシアが択捉、国後を返す訳が無い。漁業交渉、地下資源の開発は日本として譲るわけにいかない。その話合いをすべきだ。
日朝関係、朝鮮半島の非核化
日朝の方程式からして、力と力と言っている安倍首相はおかしい。安倍首相がトランプを100%支持するのもおかしい。世界は真剣に受け止めてない。金正恩にとって、アメリカがこっち向いたら日本もすぐこっち向くようでは信用できない。韓国の文在寅も拉致問題は言ってくれたが返事がない。北朝鮮と日本も簡単ではない。
 「朝鮮半島の非核化」と韓国も北朝鮮も中国もロシアも言っている。アメリカは「北朝鮮の非核化」と言っている。これは根本的に違う。朝鮮半島と言えば韓国が入る。韓国の非核化は米韓関係の軍事同盟をやめろということになり、米軍は撤退ということになる。
中国・北朝鮮軍事同盟
 1961年に中国北朝鮮軍事同盟が結ばれた。中国と北朝鮮はどちらかが攻撃を受ければ自動的に相手をバックアップする。この同盟は20年ごとに更新。アメリカが北朝鮮を攻撃したら自動的に中国は北をバックアップする。最近の中国と金正恩の話し合いでもこの一項が確認されているだろう。北朝鮮から攻めた場合はこの限りではない。
 次の更新は2021年。休戦条約を終戦条約にして国交を正常化すれば中国、北朝鮮の協定は破棄されるかもしれないが簡単ではない。
韓国との方程式 
韓国との方程式も難しい。韓国と日本の文化の違い、過去の歴史から見て、韓国は日本が考えるようには動かない。慰安婦問題など、歴史的な韓国と日本の関係をよく考えてやらないと簡単には進まないと思う。
アメリカとの関係
 日本はアメリカについて行くだけだから答えはない。自衛隊は、日本国民の安心、安全のために、自然災害中心安保部隊としてもいい。攻められたときに何にも出来ませんでは困る。今の憲法のままで、専守防衛だと明確にしておくべきだろう。
日米地位協定は見直さなければならない。アメリカの友だちから「敗戦状態と同じ条件だ。戦後70年たってまだ自主権がないのか」と言われた。日米同盟もそういう目で見直さなければならない。
日中関係をどう考えるか
最近、中国は日本との関係を大事にしないといけないという気持ちが強くなっている。
習近平は、新天皇即位のあと日本に来て第5の日中共同声明を出す。両国は協力して、アジア全体のために平和と経済の発展に努力しようと言う方向へ進んで欲しい。安倍首相は10月下旬に中国に行き、北朝鮮問題も突っ込んで話しをして欲しい。周恩来、習近平がいつも言っていたように「住所変更は出来ない」。100200年で見ると、良くなったり、悪くなったりする。30年前は、日本と中国の9割の人がお互いに好感を持っていた。今は嫌い、信用できないとなっている。今の時代もはや尖閣列島の奪い合いはない。資源開発と漁業権の問題とか現実的な話し合いになる。
両国とも戦争を避けようとの機運がある。是非皆さんもメディアもこうした戦争を避ける動きをバックアップするように、自分の出来る範囲で一歩前へ活動を進めて頂くよう期待しております。

2018年7月24日火曜日

朝鮮半島情勢と憲法「改正」
明治大学教授・東京革新懇世話人 山田 朗
 612日の米朝首脳会談により朝鮮半島の緊張状態は緩和した。日本政府それ以前の緊迫期において、これまでのイージス艦とパトリオットミサイルからなる弾道ミサイル防衛システムに地上配備型のイージスアショアを加えるというハードウェアの強化にふみきったが、情勢の転換にもかかわらずそれがキャンセルされそうには思えない。中国の軍事力強化もあわせて、朝鮮半島情勢の緊迫化は、ハードの強化だけではなく、集団的自衛権の容認というソフトの改変まで進み、さらにはソフトとシステムの中核である憲法9条の変更を求める動きを強めるに至っているが、6月以降においてもこの状況には根底においては変化がない。 
朝鮮半島情勢と日本の軍拡 
 東アジアにおける軍事的緊張は、朝鮮半島のDMZ(非
武装地帯)と台湾海峡を挟んで、大規模な軍事力が対峙していることに起因している。ここでは、台湾海峡はひとまず置くとして、朝鮮半島の緊張が、それが何故に日本の軍拡や憲法「改正」を促すことになるのかを考えてみたい。
 朝鮮半島情勢が日本に影響を与えるには、歴史的要因(朝鮮半島情勢が過去に日本の軍事の在り方を改変した経験)と現在の日本の軍事戦略という2つの要因がある。歴史的要因についてはここでは踏み込まないことにして、まずは現代日本の軍事戦略、軍事的スタンスそのものについて検討してみよう。
 まず、第一に確認しておかなければならないのは、軍事力は存在するだけではそれが直ちに「脅威」にはならないということである。軍事力やそれを手段とする戦争は、あくまでも政治(国家戦略)の延長線上にあるもので、政治的に敵対関係にある相手の軍事力の存在は「脅威」とみなされるが、そうでない軍事力はそれが存在していても「脅威」とは認識されない。たとえば、現在の日本に最も近接する、最も強大な軍事力は、中国でも北朝鮮でもなく、アメリカ合衆国の軍事力である。しかし、日米同盟のもとでは、アメリカ軍は決して「脅威」とみなされず、そのアメリカの軍事力に対峙する中国や北朝鮮の軍事力のみが、日本を圧迫する「脅威」とみなされることになる。
 現在、朝鮮戦争の再来のような〈朝鮮有事〉の現実性はきわめて低い。韓国側の戦略基調は北朝鮮を攻撃して崩壊させることにはないし、北朝鮮にも全面戦争を遂行する客観的基盤がない。かつての朝鮮戦争(1950-53年)の際には、北朝鮮に対してソ連が武器・弾薬・燃料など〈モノ〉〈カネ〉を供給し、中国が戦闘要員の養成と出撃のための基地だけでなく、義勇兵というかたちで〈ヒト〉までも提供したが、現在、戦争のために北朝鮮に〈ヒト・モノ・カネ〉を公然と供給できる国はない。それゆえ、北朝鮮は、核とミサイルを使って威嚇はできても、みずから進んで戦争に撃って出る基盤なく、アフガンやイラクのように、アメリカが無理矢理に戦争に突進しないかぎり朝鮮半島における全面戦争というシナリオは成り立たないのである。
 朝鮮半島における全面戦争(朝鮮戦争の再来)というシナリオが成り立たないのであれば、南北統一戦争の余勢を駆って北朝鮮軍が日本に侵攻する可能性もないし、そもそも日本まで侵攻することは「朝鮮半島の統一」という大義から大きくはずれるものであるから、北朝鮮単独で実施できる戦争ではない。このように北朝鮮が、日本侵攻を狙うものでないのであれば、本来であれば、現在の情勢において日本が北朝鮮を安全保障上の「脅威」とみなして軍拡をしたり、改憲する理由にもならないはずである。
 だが、なぜそうならないのか。それは、朝鮮半島情勢にアメリカが深く関与し、そのアメリカに日本が基地を提供するだけでなく、日本の軍事力(自衛隊)がアメリカと不即不離の関係性をますます強めているからである。日本政府が集団的自衛権を容認することによって、その関係性はいっそう強まった。現在の朝鮮半島情勢においては、集団的自衛権の容認とは、アメリカの敵は日本の敵であり、アメリカの「脅威」は日本の「脅威」であり、アメリカの戦争は日本の戦争である、ということの容認に他ならない。
 北朝鮮「脅威」論は、日本の対米従属の裏面にほかならないのである。
 要するにアメリカと北朝鮮の関係の悪化があってこそ、日本と北朝鮮との関係の悪化があるわけで、日本と北朝鮮との間には、拉致問題などさまざまな未解決の懸案があるにしても、純粋に2国間において戦争に訴えなければならないような問題などない。それゆえ、日本が北朝鮮と対等なかたちで外交交渉ができる態勢にあれば、北朝鮮を「脅威」とみなしたり、朝鮮半島情勢の「緊迫」を理由として軍拡や憲法「改正」に舵を切る必要性などないのである。
 アメリカが北朝鮮を「脅威」とみなす限り、日本政府は北朝鮮を「脅威」とせざるを得ない。ということは、もしもアメリカが首脳会談を契機に、北朝鮮との対話路線に完全に舵を切った場合、アメリカに全面的に従属して北朝鮮への「圧力強化」のみを主張してきた日本政府はどうするのか。日本は外交的に袋小路に追い込まれることになるが、そうなったとしても政府は憲法「改正」路線を修正しようとはしないだろう。北朝鮮という口実がなくなれば、中国を口実にできるし、結果として憲法9条を始末できればよいからである。あくまでも9条「改正」による軍隊保有、軍隊保有による「大国化」こそが目標であり、さまざまな「脅威」は口実なのである。 
必要なのは包括的軍縮 
 北朝鮮の兵器開発は、この2年ほどの間に、弾道ミサイルの開発と核爆弾の開発がセットで急速に進み、いよいよICBMSLBMクラスの長射程弾道ミサイルに搭載する実用核弾頭の実戦配備に進むことが懸念される段階になって、状況は一転した。「非核化」への歩みはどうなるか予測はつかないが、「朝鮮戦争の終結」が実現できれば、これまでの朝鮮半島情勢は大きく変化させると言ってよいが、「脅威」の焦点は明らかに中国へと移行するであろう。
 このような状況に直面し、必要なのは北朝鮮や中国の軍拡に対抗する軍拡ではなく、アジアにおける包括的軍縮である。このまま北朝鮮が極端な軍拡を継続することは、かつてのソ連のように北朝鮮そのものの経済的破綻・崩壊の危険性を増大させていたので、当面はそういった状況が回避されたことは、日本社会にとっても幸いであった。北朝鮮が自滅的に崩壊することは、膨大な難民の流出などで東アジアの政治・経済に計り知れない混乱を引き起こすことは必至である。また、北朝鮮の軍拡がICBMSLBMクラスの長射程弾道ミサイルが実用核弾頭を搭載する能力を有するようになれば、アメリカが軍事介入をする口実を獲得し、朝鮮半島と日本を巻き込む、犠牲を省みない戦争に撃って出る恐れもあった。今後ともアメリカは、やるとすれば自国本土が危険にさらされる前に、武力行使に踏み切るであろう。
 だが、現実には、北朝鮮が欲しているのは、韓国や日本との戦争ではなく、あくまでもアメリカとの交渉の糸口を作り、自国の安全をアメリカに保障させることであり、その危機意識の源泉は、自国に近接して韓国・日本に展開するアメリカの強大な軍事力の存在である。それゆえ、これ以上、韓国・日本のアメリカの軍事力が増強されたり、日本がアメリカに同調して対北朝鮮(これは転じて対中国にもなる)軍事力を増強することは、北朝鮮をさらに追い込むことにはなるが、決して抜本的な方向転換を引き出すことにはならないだろう。これは、第2次世界大戦に参入する直前の日本が、アメリカの圧力が強化されればされるほど、むしろ戦争へと傾斜していったのと同じことである。
 北朝鮮に一方的に軍事的圧力や経済封鎖によって拙速に「非核化」を迫っても、核があればこそアメリカと対等になれると考えている北朝鮮国家指導層の譲歩を実現するのは難しいだろう。また、北朝鮮への圧力を強化するために日本がさらなる軍拡へと傾斜すれば、それは、北朝鮮をさらに破滅的な軍拡あるいは戦争へと追い込むだけでなく、恐怖の均衡が継続したとしても、日本の軍拡は必ずやただでさえ軍拡基調にある中国の軍事力増強に拍車をかけさせる結果となる。中国のさらなる軍拡は、インドの軍拡を招き、インドの軍拡はインド洋周辺諸国やパキスタンを軍拡に走らせ、中東諸国ひいてはイスラエルやイランの軍事力強化へと連鎖することは必定である。つまり、朝鮮半島情勢に起因する日本の軍拡が、東アジアの危機を高めるだけでなく、世界規模での軍拡の連鎖をひきおこすことにこそ、日本の軍拡、憲法「改正」の本質的問題点が存在する。
 それゆえに、朝鮮半島情勢に対処するにあたっても、眼前の北朝鮮を力で抑えるということではなく、軍拡の連鎖から脱出する道をさぐることこそ重要であり、そのためには、対北朝鮮戦略の柔軟化(対話の促進)と対中国戦略の転換が北朝鮮の姿勢をかえさせ、アメリカを軍事的暴発に走らせないためのキーであると考える。

2018年5月6日日曜日

理念がないということの恐ろしさ〜幻の航空券連帯税

   池田 香代子 さん
 出国税という新しい税ができました。なにじんでも、日本を出るときには1000円払う、税収は観光分野の整備に充てる、というものです。これについては、きっと誰もさして話題にしないだろうということと、個人的に苦い思いがあるという二つの理由で、ここに書いておきます。
 わたしはかねてより、これと同じように出国者から税を徴収する構想に賛同してきました。けれど、集めたお金は国内では使いません。世界の、気候変動の影響をうける地域への援助や、エイズをはじめとする伝染病の予防や治療に使います。
 航空券連帯税というのがその名称で、すでに韓国やフランス、ドイツなど8カ国が実施しています。つまりわたしたちは、韓国やフランスに行ったら、帰りにはこの航空券連帯税を知らぬうちに払っているのです。フランスだと約400円、韓国だと約200円です(これはエコノミークラスのばあいで、ビジネスクラスやファーストクラスだとその10倍くらいです)。
 国際的に税金を集めて世界の貧困問題を解決しよう、という発想は、半世紀近く前からありました。提唱者の名前をとって、トービン税と呼んだりします。けれど、この理想的な構想はなかなか実現しませんでした。
 2000年に始まった国連のミレニアム計画(「2015年には貧しいを半分に」)はしかし、この国際連帯税構想を後押ししました。そして、いろいろな徴税アイディアの中でも手をつけやすいものとして、8カ国が先行して航空券連帯税を始めたのです。
 航空券連帯税のおかげで、たとえばアフリカのHIV陽性の子どもたちの70%がカクテル療法を受けて、エイズを発症せずにすんでいます。エイズは治療可能な病気になって久しいのですが、毎日飲まなければならない何種類ものエイズ薬は、多くが高価な特許薬です。けれども、航空券連帯税のおかげで、お金のあるなしが命を選別してきた現状を劇的に変えることができたのです。
 日本も、この航空券連帯税を導入するチャンスがありました。
 民主党政権時代、自民党の政策集には、航空券連帯税を導入する、という記述がありました。ところが、政権に返り咲いた翌年の政策集からは、それは消えていました。事情を問いただすと、「うっかりした」とのことでした。けれど、さらにその翌年の政策集にも、航空券連帯税という文字はありませんでした。これでは、下野時代にはさまざまな分野の研究者や市民団体にいい顔をしたけれど、政権さえ取ってしまえば知らん顔なのだな、と思われても仕方ありません。
 それでも、航空券連帯税を実現させようとする人びとは、めげずに与党や省庁に働きかけ、法案取りまとめの寸前まで行きました。けれど、おもに国交省の反対で、立法化はあえなく潰えました。海外からの観光客を増やしたいのに、そんな新税で水をさすわけにはいかない、というのがその言い分でした。
 けれど、その舌の根も乾かぬうちに、徴税方法だけは「いただき」の、自国の税収を増やす出国税には、国交省も賛成したわけです。航空券連帯税導入を主張していたはずの自民党議員たちは、沈黙しました。
 なんという体たらく。そもそも国連ミレニアム計画で打ち出された「持続的開発のための教育」という考え方は、日本のイニシアチブで採択されました。その原資としても、日本は率先して航空券連帯税をはじめとする各種の国際連帯税を推進するのが筋でしょう。安倍政権は、ミレニアム計画にも「持続的開発のための教育」にも冷淡でした。
 なのに、外交の安倍、なのだそうです。あちこち外遊してお金をばら撒き、いっときいい顔をするのが、彼の「地球儀俯瞰外交」のようです。地球儀は空っぽです。もしかしたら、地図をプリントしたビニールボールだったのかもしれません。あのチャプリンの名作に出てきたような……。
 世界史的な理念の航空券連帯税を利己的な出国税へと堕落させた一事を取っても、この政権に国際的な使命感に基づく外交理念などなかったことは明らかです。経済の新自由主義のもと、この国は浅ましい国に堕ちてしまった。これを立て直すのは大仕事です。(寄稿)

2018年2月6日火曜日

2月4日

東京革新懇総会記念講演レジメ          2018年2月4日
政治の現状と安倍9条改憲阻止の展望
       法政大学名誉教授  五十嵐 仁


はじめに
通常国会―働き方改革、人づくり革命、9条改憲、モリ・カケ、スパコン、ゼネコン疑惑
2018年の位置―戦後政治の第2段階の終末期、末路と活路のせめぎあい、危機突破
草の根からの政治変革―9条をめぐる激突、安倍暴走政治の断罪、運動を通じての共同


1、安倍暴走政治の行きついた先―危機の拡大
 平和は守られるのか―安全保障環境の悪化、北朝鮮の核・ミサイル開発、周辺関係の閉塞
 民主社会は維持できるのか―秘密保護法、安保法、共謀罪法、メデイア・報道の不自由
 地球環境は守られるのか―トランプという阻害要因、原発再稼動、利潤優先・資源浪費
 景気は回復するのか―大企業は回復、内部留保406兆円、賃金停滞、家計消費は低迷
 生活は良くなるのか―貧困と格差の拡大、地方・地域の衰退、実感(実態)なき回復
 社会は持続できるのか―総人口と生産年齢人口の減少、中間層の没落、福祉の切り下げ
 未来は明るいのか―少子高齢化、非正規化、長時間労働、低収入、若者に失われた希望


2、危機を生み出した背景と要因
戦後の第1段階―経済・社会への公権力の介入、修正資本主義と福祉国家、ケインズ主義 戦後の第2段階―新自由主義による公権力の退出、官から民へ、規制緩和、フリードマン 失望と失敗―見捨てられた人々の蓄積、貧困の増大、格差の拡大、緊縮政策、ネオコン アメリカの衰退―ベトナム戦争とイラク戦争、2つの怪物(金とIS)、シリア難民の発生
 第2段階での日本の失敗―臨調・行革路線、新自由主義、政治改革、行政改革、構造改革
 政治改革―小選挙区制、派閥の衰退、議員の劣化、多極的柔構造の消滅、振り子の外部化
 行政改革―省庁の再編、巨大官庁=内閣府の登場、補佐官、官邸支配、内閣人事局
 構造改革―政治主導、戦略的政策機関による国会のバイパス、特区による私物化と忖度
 小選挙区制の失敗と効果―2大政党制の破綻、野党共闘の促進、試行から本格的実施へ


3、9条改憲をめぐる激突の開始
 再浮上―安倍首相の野望、米からの分担要請、北朝鮮危機の利用、「改憲勢力」の増大
戦争できる国に向けての総仕上げ―特定秘密保護法、安保法、共謀罪法、9条改憲
整備―システム(法律や制度)、ハード(自衛隊、在日米軍)、ソフト(人材、意識、世論)自衛隊を書き加えるだけ―後法優先の原則、安保法後の自衛隊、朝鮮半島危機
「効用」の喪失―戦争加担へのバリケード、軍備増強への防壁、国際テロへのバリアー
 「改憲」ではなく「壊憲」に反対―安倍9条改憲は「壊憲」の典型、新憲法の制定
不都合が生じなかった―条文が少なく短い、理念中心、法で具体化、人権が豊富で先進的
優先課題は何か―緊張緩和、景気回復、少子高齢化防止、福祉の充実などに全力を

〔参考〕日本国憲法前文
これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する。

ドイツ基本法
 基本法79条 第1および第20に定められている諸原則に抵触するような、この基本法の改正は、許されない


4、安倍9条改憲をめぐるたたかいの展望と課題
孤立させる―安倍9条改憲反対54%、急ぐべきではない67%、自衛隊明記「理解進まず」
安倍改憲の4つのハードル―自民党内、与党公明党、立憲民主党と希望の党、国民投票
 2019年までが勝負―4月統一地方選、天皇退位、7月参院選で3分の2以下に
 署名活動の刷新―ヒバクシャ国際署名と共に、インスタ映え、街頭+個別のローラー作戦
 署名を集める主体の拡大―してもらうとともに集めてもらう、集約体制が重要
 共同の追求―全労協系・連合系・中立系労組、原水禁、主婦連、日本青年団協議会など
 宗教団体との連携―立正佼成会、成長の家、真宗大谷派、カトリック中央協議会


むすび
 2つの獲得目標―9月の総裁選での安倍3選阻止、秋の臨時国会での改憲発議阻止
革新懇の役割―ハードルを高める、橋を架ける、斬新な企画、ハブの機能、地域デビュー
シニアの責任―70年かけて実現した自由で民主的な平和国家を守り次の世代に手渡す


【参考】個人ブログ「五十嵐仁の転成仁語」http://igajin.blog.so-net.ne.jp/
五十嵐仁『対決 安倍政権―暴走阻止のために』学習の友社、2015
五十嵐仁『18歳から考える日本の政治(第2版)』法律文化社、2016
五十嵐仁『活路は共闘にあり―社会運動の力と「勝利の方程式」』学習の友社、2017