ジェンダー平等は中心課題
全国革新懇代表世話人・東京革新懇代表世話人
弁護士 杉井静子
5月21日の全国革新懇総会での杉井静子さんの特別発言をご紹介します。
国連の女性差別撤廃条約の前文では、「国の完全な発展、世界の福祉及び理想とする平和は、あらゆる分野において女子が男子と平等の条件で最大限に参加することを必要としている」とうたわれています。ですから、全分野でジェンダー視点での点検と平等を具体化する実践が求められています。また、国連のSDGsの17項目の目標は、貧困の解消とジェンダー平等の実現がベースになっており、ジェンダー平等の課題はあらゆる分野にありますが、三点にしぼって発言します。
第一に男女賃金格差の問題
(1)世界経済フォーラムの日本のジェンダーギャップ指数は、156カ国中120位。大きな要因の一つが男女賃金格差。主要7カ国の中で最も格差が大きく、2020年の厚労省調査でもフルタイムで働く女性の平均所定内賃金は男性の7割です。
年収200万円未満のワーキングプアの女性が正規で15.5、非正規で56.2%。大多数の女性が自分の収入では生活できない低賃金です。
(2)女性は低賃金でいつでも首切れる非正規の労働力と位置づけられ、日本経済を支えています。男女賃金格差を正当化する理屈は、女性は長時間労働に耐えられず、家事、育児の負担があるということです。男性に比べ“半人前”の労働力とされ、不安定雇用を強いられています。共働きが多数になっているのに、性別役割分業のイデオロギーの下に、低賃金・非正規が正当化されています。
今日では男性、とりわけ若い男性労働者の多くが非正規で低賃金で働かされています。男女賃金格差の是正は、労働者全体の賃上げにもつながる男女共通の課題です。
(3)男女賃金格差を支えるもう一つの側面は、女性が圧倒的に多数を占めるケア労働の賃金の低さにあります。政府はケア労働者について、一定の賃上げ政策をとりましたが、月額10万円以上の賃金格差解消にはほど遠いものです。ケア労働が低賃金なのは、性別役割分業の下で家事労働の延長とみなされているからです。しかし、子育て、介護、看病等のケア労働は、政府が公的に位置づけ保障すべきです。北欧諸国などでは、ケア労働者が公務員と位置づけられています。
女性が対等に働き続けることを保障するには、保育園、介護施設の拡充が不可欠であり、それは政治の責任です。
(4)男女賃金格差は日本経済の根幹であるため、たやすく是正できませんが、男女賃金格差を可視化することが是正に向けての第一歩と言えます。政府は企業に男女の賃金格差の開示義務づけを打ちだしました。共産党議員が国会でくりかえし問題提起した成果です。運動の一定の成果と言えるでしょう。
(5)賃金格差は「生命の値段の格差」でもあります。交通事故で被害者が死亡した場合、男の子と女の子の遺失利益が、数千万円も違います。平均賃金をもとに計算しているからです。は下級審の判例では、男女の平均賃金で計算するものも出ていますが、最高裁は男女別の女性の低い平均賃金での計算も是としています。男女の賃金格差は“生命の値段”の格差で人間の尊厳を侵す問題です。
第二に家父長制度的家意識の問題
(1)日本社会に未だまん延するジェンダー差別の根っこにはこの意識があります。
戦前の「家」制度は戦後廃止されました。しかし、憲法24条で個人の尊厳と両性の平等がうたわれ、憲法施行75年が経つというのに、この「日本的家族観」は社会の隅々に残り再生産されています。女性差別撤廃条約が掲げているように、慣習も含め日常生活から変えていかなければなりません。それが条約締約国の義務です。また、国民も声をあげていかないと意識は変わりません。
(2)いまだに家父長制に通じる法律が残存しています。戦後「家」制度廃止にあたって守旧派とのはげしいせめぎ合いがあり、民法の家族法の部分は極めて不十分な改正にとどまりました。
その一つが戸籍制度であり、夫婦同姓の強制です。戸籍は個人籍にせよとの意見もあった中で、「夫婦と未婚の子」の「家族籍」となりました。戸籍「筆頭者」は残り、筆頭者の氏のもとに家族が同一の戸籍にくくられました。筆頭者は、従来の慣習の下で90%以上が夫の姓となり、妻は事実上改姓を余儀なくされ、今日に至っています。
今日、「戸籍」制度は矛盾が露呈してきています。その一つが「婚氏続称制度」です。戦後しばらくは婚姻により改姓したものは、離婚により必ず旧姓に戻りました。氏(姓)は「家」の呼称であったからです。女性たちの運動で1976年に民法が改正、離婚した者も婚姻中の氏の続称が可能になりました。しかし、離婚した妻が再婚するときは、また夫の氏に改姓する人が多く、氏(姓)は個人の呼称になりきっていません。再婚した妻が前夫との子を自分の現姓(氏)にするには、現夫と子との間に養子縁組をしなければなりません。
最高裁が、いまだに夫婦別姓を認めない民法を違憲としないのは、氏(姓)は個人の呼称ではなく「家族」の呼称と考えているからです。
日本会議などが夫婦別姓に反対するのもそこにあります。夫婦別姓の実現は、「家」意識の残滓をとりのぞき、戸籍制度をくずすきっかけになるからです。
夫婦別姓の実現は、個人のアイデンティティの源である氏名を個人に取り戻す、個人の人権と尊厳にかかわる問題です。
(3)わが国では各種の社会保障制度上に世帯単位原則があります。税制上の配偶者控除制度、健康保険上の家族給付制度、年金の第3号被保険者制度などです。夫に養われている妻が優遇される制度です。独身者や自営業者の妻やシングルマザーなどにはない制度です。ここにあるのは「世帯」という名の「家」の保護であり、「世帯主」を想定する制度設計です。離婚のときに問題となる児童手当、コロナ禍での各種給付金の支給は「世帯主」が支給の窓口。個人単位の制度に変更していく必要があります。
最後に強調したいのは、政治分野でのジェンダー平等
(1)日本のジェンダーギャップ指数は、政治分野では156カ国中147位、前回より順位を下げています。日本の衆議院議員の女性比率は1割以下。世界では下院の女性比率は、アイスランド47・6%、スウェーデン47%、フランス39・5%。日本の地方議会議員の女性比率は一番高いところで都議会が29%ですが、全体的には数%。 国会でも地方議会でも、「女性のいない民主主義」なのです。
「政治分野の男女共同参画推進法」が国政選挙での女性の候補者割合を増やすよう各政党に努力を義務づけますが、強制力がないため、とりわけ政権与党の自民、公明の女性候補割合は低いままです。世界では130カ国以上がクオーター制(一定割合を女性に割り当てる)を導入。フランスでは2000年にパリテ法(男女同一割合制)が出来てから女性議員がぐんと増えました。国が先頭に立つべきなのです。
(2)あらゆる政治分野、政策に女性の参加を増やし、ジェンダー視点でとりくむことが大切です。災害対策、コロナ対策、気候危機対策、等々です。
平和の構築のためにもジェンダー平等は不可欠
2017年に国連で採択された核兵器禁止条約では「女性および男性の双方による、平等で十分かつ効果的な参加が、持続可能な平和と安全の促進と達成のための不可欠な要素であることを認識し、女性の核軍縮への効果的な参加を支援し強化することを約束」すべきとしています。
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