2011年9月6日火曜日

連合はエネルギー政策の転換で イニシアチブの発揮を


五十嵐 仁(法政大学大原社会問題研究所) 

反省を迫られる連合
3月11日に勃発した福島第1原子力発電所の過酷事故は、労働組合や労働運動にとっても、そのあり方が問われる大きな問題を提起するものでした。とりわけ、連合にとって、この事故は深刻な反省を迫られるものでした。
というのは、連合は会社と一体となって原発推進の立場に立つ東電労組や電力総連を傘下に置き、しかも、連合自身、原発の推進に向けてエネルギー政策の舵を切ったばかりだったからです。

会社と一体で原発推進
たとえば、電力総連は2010年の第30回大会で「プルサーマルの推進、核燃料サイクルの確立を含め、原子力発電の推進は、エネルギー安定供給、地球環境問題への対応の観点において、極めて重要な課題です。私たちは、労働組合の立場から労働界をはじめ国民各層への理解活動を強化していかなければなりません」という方針を打ち出していました。電力会社と一体どこが違うのか、と言いたいような方針です。

原発の新増設を「着実」に
このような傘下単産による「理解活動」もあって、連合は原発推進へと舵を切ることになります。2010年8月に連合は中央執行委員会で「エネルギー政策に対する連合の考え方」を採択し、「現在計画中の原子力発電所の新増設については、地域住民の理解・合意と幅広い国民の理解を前提に、これを着実に進める」との方向を打ち出しましました。

原発震災で「路線」を変更
そしてその半年後、未曾有の「原発震災」が福島を襲い、このような路線を維持することは不可能になります。連合は4月20日の中央執行委員会で従来の政策を「凍結する」としましたが、それでは不十分でしょう。原発に依存する社会のあり方やエネルギー政策を転換するために、労働組合はイニシアチブを発揮しなければなりません。

原発の廃止、省エネルギー社会を
福島第一原発で放射能漏れの防止と沈静化のために働いている人々の健康と安全を守り、被曝の危険にさらされるような労働を不必要とするために、できるだけ早く全ての原発を廃止するべきです。
震災や節電を口実とした非正規労働者の解雇や人員削減を許さず、省エネルギー社会にむけてワークシェアリングによる労働時間の短縮を図り、雇用を増大させなければなりません。長時間労働を是正し、過労死や過労自殺のないディーセント・ワークに支えられた新しい社会を目指すチャンスとするべきです。

ディーセントワークの実現を
このようにして、人間らしい労働と生活を実現することこそ、労働組合が果たすべき本来の役割です。連合は原発推進に一度は転じてしまった誤りを深く反省し、エネルギー政策の転換に向けての指導性を発揮するとともに、ディーセントワークの実現に向けての本格的な取り組みを始めてもらいたいものです。

「貧困と格差」のない社会をめざして③

人生を豊かにする演劇と「格差」
~ 創る者も観る者も、人間らしく生きる「水」を求めている ~
葛西和雄(青年劇場俳優、渋谷革新懇)
俳優は貧しいと覚悟していましたが
私が俳優を志したとき、収入や貧困とかまるで考えていませんでした。というより、仕事に就いて暮らしていけない状況がある―とは、考えもしませんでした。貧しいだろうなあ…とは覚悟していましたが。実際、演劇人は経財的に豊かではありません。先輩から美濃部都政時代に都営住宅に入居できたのでやってこられたという話を聞きました。お金持ちでなくてよいから、子どもの養育や住居、健康、老後の心配なくじっくりと演劇づくりに取り組める環境があれば、多少貧しくても頑張れる、とみんな思っています。

貧困で演劇鑑賞をあきらめる人も
劇団に入り、自立した演劇づくりには多額のお金がかかること、観客に支えられること、なにより多くの人に責任を持って演劇を届けること、演劇の職業化をめざす必要を教えられました。みんなで、一人でも多く観客になってもらえるようにと、人とのつながりを求めてきました。
しかし今、「貧しさ」の代表格の演劇人が威張れないほどワーキングプア―が激増し、貧困といわずとも、支出節減でやむなく演劇鑑賞を減らしたりあきらめる人も増えています。

芸術鑑賞回数は、国民の豊かさ指数
もちろん「生きがい」として観続けてくださる方々に、大いに励まされています。
生の舞台芸術鑑賞体験回数はその国の国民生活の豊かさを図る指標の一つと考えます。日本では、圧倒的多数の国民がその体験をできずにいるのでは。たとえば公務員の皆さん。「公務員バッシング」や人員・財政削減が進み、時間・経済・意欲的に余裕を失っていませんか。私たちは学校での鑑賞教室にも取り組んでいます。生徒たちに生の演劇鑑賞体験をさせたいと考える先生は大勢いますが、ではその先生はどれだけ演劇に触れているでしょう。教師を目指す青年はどうでしょう。

国は文化予算を増やせ
今必要なのは、そうした体験を可能にしてこその豊かさであり、それは国や自治体、企業が、税金の使い方を変え人間らしい生活を保障することに責任を果たすことで実現できると思います。昨年芸団協(正式名称「芸能実演家団体協議会」、会長は野村萬。)は全国規模で「文化予算を国家予算の0・11%から、0・5%に」増やすことを求め請願署名を集めました。これは芸能実演家たちの悲鳴であり叫びであることを、国や政治家は理解すべきです。今、創る者も鑑賞する方も社会も、深いところで人間らしく生きる「水」を求めています。

新作「普天間」を、青年たちに観てもらいたい
 今私は、青年劇場の新作「普天間」の稽古中です。沖縄が背負わされている苦悩を舞台から伝え、多くの人と考えたい。特に悪政に痛めつけられている青年たちにぜひ観てもらいたい。先輩の皆さんから声をかけ後押しいただきたいです。福島の原発事故や震災復興など将来不安だらけの中ですが、たとえひと時でも劇場で肩寄せ合いひと時を共有することが、次への活力を生むと確信します。
      http://www.seinengekijo.co.jp/frame.html